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俺と猫 (今までの更新分) 

「俺と猫」  ツヴァイト


~~~
      ** 0 **

「あ゛~・・・・・」
 透き通るように青くて果てしなく高い天井から止め処なく流れ落ちてくる朝の黄色い光にさらされて、大聖堂の前の芝生に寝っ転がっていた俺は体に溜まった重い空気を吐き出した。
 ひょっとしたら黒い息になって出てくるんじゃないかと思ったが、さすがにそんなことはなかった。
 夏に差し掛かった日差しなんて、いつもなら暖っかいを通り越して暑いと感じる所なのだが、徹夜明けの体は降り注ぐ朝日をスポンジのように吸収して、夜食のつるつるそばでは補いきれなかったエネルギーを補充してくれているような気がした。
 現にさっきまでうつむき加減でダメな感じにしなびていた頭のひまわりも、今では葉っぱを広げて100万ゼニーのスマイルで太陽を見上げているではないか!

 俺の名前はツヴァイト。俺は俺を「神官戦士」と呼ぶ。


      ** 1 **

 昨夜、俺はプロンテラ大聖堂の広間で、火の無い暖炉の前に置かれた一人用ふかふかソファに腰掛け、紅茶片手に夕食の余韻に浸っていた。
 いつもなら気の合う仲間達と冒険話で盛り上がってるトコロなのだが、最近は執筆中の「逃げるドロップス、逃げないドロップス」の構想を頭上30cmにもやもやと発生させて、「俺をそっとしておいてくれ」オーラを渋く展開していたので、案の定背後で聞き覚えのある声は聞こえるものの声をかけてくる奴はいなかった。

 ちくっ

「うっ」
 しかし突然、敏感なわき腹をつつくような感触にツヴァイトは呻いて、その部分を押さえた。
「???」
 しかしそこはソファの背もたれの部分だったので俺は左に二回、右に一回首を傾げたところで気を取り直して座りなおそうとした。

 さくっ

「はうっ」
 今度は気のせいなんかでは絶対無い。背中のど真ん中、上から8個目くらいの背骨に何か鋭いモノが突き刺さった。
「な、な・・・!!」
 背中を押さえて俺は涙目でソファを振り返る。
「あ!」
 そしてそこで見たものに声を上げる。ただしソファではない、そのもっと後ろの方だ。そこには長い髪の女の人が座っていた。
「何するんですか楼香さん!!」
 それは大聖堂で子供たちに人気と評判の楼香さんでした。彼女はツッコミも鋭いのだが、無言の視線は優しげなのにもっと鋭いので時々本当に刺さるのだ。しかも俺にだけ!!
「どうしたんですか?」
 楼香さんが座ったまま不思議そうに、近づいてきたツヴァイトを見上げました。
「痛いじゃないですか!どんな風に俺を見たらこんな事になるんですか!ほら、ちょっと血出てますよ!!」
「そんなことある訳無いじゃないですか・・・」
 しかし俺の抗議は楼香さんの呆れた声の一言で切り捨てられてゴミ箱に捨てられてしまった。
「あるから言ってるんですよ!」
「それより、めておさんが私の部屋に来ているのですが」
「え!なんて羨ましい・・・・じゃなかった。姿が見えないから気になってたんですよ」
 「めてお」は俺の飼っているドロップスの名前で、食いしん坊でちょっと目を離すとすぐに姿を消す困ったヤツだ。
「困るほど世話してないじゃないですか?」
「人のナレーションを勝手に聞かないでくださいよ!」
 そんなこんなしている内に楼香さんの部屋の前についていた。
「では、少し待っててください」
(めておはいいのに、俺は入っちゃダメなのか)
 俺は喉元まで全力で駆け上ってきた言葉をごくりと飲み込んで、胃の中でゆっくりと消化した。
「・・・・・」
 扉の奥に消える直前に一瞬だけ可哀想なものを見るような目で楼香さんが俺を見た気がしたけど、たぶん気のせいだ。
「お待たせしました」
 一分も待たない内に楼香さんがサッカーボールくらいの黄色い半透明の物体、ドロップスのめておを両手で抱えて扉から現れた。めてお・・・・どこまでも羨ましいやつ・・・
「あ、どうもです」
 楼香さんにバレないように受け取っためておを睨み付けた。
「・・・ところでツヴァイトさん」
 楼香さんは俺の様子を伺うように躊躇いがちに言いました。
「?」
 俺は不思議に思って楼香さんの次の言葉を待った。
「今夜暇ですか?」
「え!?」
 
「いえ・・・ですから今夜、時間ありますか?」
 いつになく控えめな物言い。そう、「言いたいけど、・・・どうしよう・・・」みたいな、言い方はなんですか!?いつものアナタらしくないじゃないですか!!
「・・・・」
 俺は言葉を失ってしまった。
 しかし頭の中では数十のミニツヴァイトがドーナツ型の大きなテーブルを囲んで緊急会議を開いており、凄まじい喧騒が右へ左へと飛び交っていた。
(お手柄だ!めておが楼香フラグを立てたぞ!)
 頭からひまわりを生やしたミニツヴァイトがグーにした拳を振り上げて叫んだ。直後、歓声と拍手が沸き起こる。
(バカヤロウ!相手は楼香さんだぞ。舞い上がってんじゃねぇ!何かあるに決まってるだろう!!もう少し様子を見るべきだ!)
 正面に座っていた、黒いシルクハットをかぶったミニツヴァイトがバンバン!と机を叩いて反論する。これにもその通りだ、冷静に対応すべきだ、と同意の声が上がる。
(何ぃ?バカはお前だ!こんなチャンスはもう一回転生したって巡ってくるか分からないぞ!)
(ぐはぁ!)
 エキサイトして卓上を乗り越えてきたひまわりツヴァイトが、シルクハットツヴァイトの胸倉を掴んで殴り飛ばしてしまう。
(あ!このやろう!)
「おい、早くしろ!」
「どうしたんですか?」

・・・・っは
 しまった・・・思わずイライラして叫んでしまったようだ。
「ちょっと会議が長びいてまして・・・」
「会議?」
 ま、まずい、墓穴が広がっていく!
 ますます怪訝な顔をする楼香さん。俺は慌てる。
(おい!早くするんだ!)
 今度こそ俺の声が会議場に響き渡ると、ミニツヴァ達がびくりと飛び上がってカサカサと席に戻って行きました。
 
 わやわやわやわやわやわやわや・・・・・・!

 隣同士で顔を見合わせながら再びミニツヴァ達の会議が始まる。
(だから・・・・!)
(・・・いやしかし・・・!)
(もう時間が無いぞ!)
(・・・・・・!!)
 そして結論が出た!

・・・・・・カッ!
 俺はついにくわっと目を開き顔を上げる。
「暇です!暇すぎて一人スゴロクでもやろうかと思ってたトコです!」
 しまった。一言余計だ!これじゃただのヘンなヤツじゃないか。

しかし・・・・
「そうですか」
 しかし楼香さんはホッとしたように言うと・・・ちょっとだけ笑顔を見せた。
「・・・・・ッ!?」 
 俺にはその瞬間スローモーションになったように見えた。今まで見せたことのない涼しげな笑みの眩しさに、俺は突風に吹かれたように一歩後ずさってしまう。
 グサァ!!
 次いで、熱い塊が俺の胸を貫通してどこかへ飛んでいく。
(だー!)(ぐわー!)(きゃー!)(ま゛ー!)
 同時に頭の中の純情なココロのビレタをかぶったミニツヴァ達が20人ほど血を吐いて幸せ死したが、もはや脳内会議は必要ない。あの楼香さんが俺に笑いかけるなんて・・・・これはいよいよ・・・いよいよ!!間違い無い。俺はいま、「正しい道」を進んでいる!
「ここでお話もなんですから、とりあえず中に入りませんか?」
(わーわーわーわーわーわー!!!)
 一斉に歓声を上げてテンション最高潮のミニツヴァ達を俺は必死で宥める。落ち着け、まだ勝負は始まったばかりなんだ。

 俺は深呼吸を一つして、平静を装い楼香さんに続いてその扉をくぐっていった。

~~~~~~

 そして鳴らされた開始のゴング・・・・・
「じゃあお願いしますね」
 それは同時に終了の鐘でもあったのだ。
 ドサッ
「っちょ。重っ、なんですかこれ!」
 両手にのしかかるずっしりとした直方体に思わず悲鳴を上げる。
「ん?大聖堂人気投票・・・アンケート・・・?」
 一番上を見ると文字が書いてあり、ようやくそれがあまりにも大量の紙が重なって直方体にまでなっていたのだ。これはまさに二次元から三次元への進化・・・・などと悠長なコトを言っている自体ではない!楼香さんは、このどう見ても千枚を軽く超えたアンケートを俺に集計させようとしているのだ。
「騙したな!!」
 次の瞬間、気がつくと俺は頭をからっぽにして叫んでいた。
「いきなりどうしたんですか」
 楼香さんはびっくりした顔で俺を見た。
「俺はてっきり楼香さんが・・・だー、もういいですよ!!それよりいつ始めたんですか!俺知らないっすよ!」
「え?」
 俺の言葉に楼香さんはまたまた驚いたような顔をした。
「ツヴァさんのもありましたよ?」
「え゛?」
 楼香さんは背後の机に置いてある、俺が持ってる用紙を更に増量した感じの紙をびびーっと弾いていって途中一枚の紙を引き抜いた。
「ほら」
 その紙を俺に差し出した。すると確かにそのアンケート用紙の[名前:]の欄にはツヴァイトの文字が、

【名前 : ヤドツヴァイト】
「あれ?ほんとだ。・・・・って思いっきりバカ忍者が名前書きかけて消してるじゃないですか!しかも凄い安直に!」
「あら」
「あら、じゃないですよ!どうみてもアイツの仕業じゃないですか!あ!!しかもなんでまた戻しちゃうんですか、捨ててくださいよ!!」
 両手が紙の山で塞がっている俺には楼香さんの背中に向かって、やるせない思いを胸に精一杯叫ぶことしかできないのである。
「あ、じゃあツヴァさんこっちやりますか?」
「いやですよ!こっちの2倍近く・・・・・っは!!」
 ここで初めて俺はすでに楼香の術中に落ちていることに気づいた。すでに俺に与えられた選択肢には『手伝わない』という項目が、今目の前で春風のような涼しげな顔をした悪魔に削除されていたのだ!
 未だ両手をアンケート用紙に塞がれている俺は額から噴出す冷たい汗を拭うことも許されないまま立ち尽くす。 もし次の瞬間、楼香さんが口の片端を吊り上げて「けけけ」とか言い出しても、もう俺は驚かない自信があった。俺は素早く視線を走らせて、楼香さんに気取られないように部屋の中を見回した。しかし、楼香さんの後ろにある執務ようの簡素だがいいセンスの執務机が一つあるのみで、さりげなくこの紙を置いて逃げられるような机はありそうに・・・・あ、衣装ダンス。あの中に・・・楼香さんの・・・・って今はそれどころじゃない。何か、何かないのか!?

「あの・・・・・」
「・・・く」
「ツヴァさん?」
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 楼香さんが再び口を開いた瞬間、俺は満月の夜崖っぷちで変身する狼男のような声を残して、部屋を飛び出していた。
 とにかく逃げなくてはいけないと思った。
 これ以上話を続けていたら・・・・・・きっと俺は、全部やらされるはめになる!

~~~

「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」
 ハチキレそうな想いを右手に込めて、はけ口を求めるように机に向かってペンを振るい続ける。
「ガンバルっす!もぐもぐ」
「うるさい!!」
 後ろでナマイキにも丸イスに座っている(?)めておの声援を窓の外に蹴り飛ばす。
「ちょっと待て」
 俺はぐるりと振り返り、ぐわしと両手でめておを掴み上げる。
「何っすか?もぐもぐ」
「ご主人が徹夜で必死になってるっていうのにお前は一人で何食ってるんだ?」
「何のことっすか?」
「しらばっくれんなぁぁぁ、この半透明植物が!未消化の黄色いハーブが見えてんぞ!!」
「ウマいっす!!」
「ンなことは聞いてない!!」
 ぎゅうう、とアイアンクロウでめておの体をひょうたん形に成形して、クッションの積まれたソファに全力投球したところで大分気分が晴れたのでめておの結末を見ずに机に戻る。
「・・・っく・・ぐぐ・・」
 現在3時25分・・・モチロン朝だ、キブンも窓の外もマックラだ。ギリギリと奥歯をかみ締めて赤くなった目で睨んでみたが、時計は時計周りにしか回ってくれなかった。
 俺が・・・
「くそぉぉぉぉ!!」
 乱暴に抑えた左手が紙に皺にしているののも構わず俺は右手を振るう。
 俺がやるしか・・・ないんだ!!
 

~~~~~

チュピチュピ・・・チュチュンチュン
 どこからか小鳥の声が聞こえてくる。でもその声もどことなく眠たげにか細い気がする。
 大量の紙を抱えて歩く俺は、廊下に並ぶでっかい窓の外から入ってくるやわらかーい朝の光ですら徹夜明けの体には真夏の日照りよりも暑い放射にあてられたようにヨロめいてしまう。
「く・・・」
 なぜ俺がこんな目に・・・・・
 ペンを振るい続けた右手には既に感覚すら無く、インクで真っ黒だった。土気色の顔でふらふら歩く姿はゾンビのようでさっきすれ違ったプリーストはビクっと飛び退って咄嗟に腰のメイスに手をかけるほどだった。
 ウカツにもあのバカめておのせいで楼香さんの口車に乗車させられて危うく終点ヴァルハラまで乗せられるところだった・・・
 いくらひまわりの花のように広く明るいココロを持った俺と言えども「ハハハ、気にするなよ」と笑ってユルせるものではない!
 一言二言、いや三言は文句を言ってやらなければ俺の腹の虫が収まらない!

 ドンドンドン!

 軽くノックしたつもりだったのだけれど、ドアは3割り増しの音量で部屋の主に俺の来訪を伝えてしまった。
 これで寝てたりして反応が無かったらどうしてくれよう。
「どうぞ」
 しかし、部屋のドアからすぐに楼香さんの声が返ってきた。心なしかその声は疲れているようだった。だけどそんなことでは俺の怒りの炎を鎮火するにはまったくもって不足だ。ドアを勢いよく開けて俺はずかずかと部屋に入っていく。
「ありがとうございます。私もちょうど終わったところでした」
「・・・・っ」
 あれだけ強い決意を秘めてきたにも関わらず、部屋に入った途端に、俺の中で燃えていたアツいものが急速に小さくなっていくのを感じ取っていた。
「・・・大丈夫ですか?」
 机の前まで距離をつめた俺だったが喉元まで込み上げていた言葉を、ぐぅぅっと凄まじい意志力で飲み込んだので顔が激しく歪んでいたらしく、楼香さんが心配そうな顔をした。
「・・・・ぐ・・く・・」
 一筋の汗が頬を伝い、かみ締めた奥歯からヘンナ音が漏れ出したが、そんなことには構わず俺は両手で抱えてきた直方体にまで積みあがった紙の山を勢い良く楼香の机に置いた。
 そしてくわっと顔を上げて楼香さんに向かって俺は言ってやった!!

「おつかれさまですよ!!」

 ナゲヤリ気味にそれだけ言うともう俺は耐え切れなくなって、ぐりん!、と180度方向転換して速度増加を唱えて部屋を飛び出した。だって・・・だって・・・言えるはずないじゃないか!俺の終えたのと同じくらいの紙の山がいくつも、楼香さんの机に置き切れずに床にまで積まれていたんだぜ!?しかももう終わったって言ったんだぞ!!
 ワケも判らずあふれ出す熱い涙を、俺はハイ・プリーストの白い袖で拭いならが廊下を駆け抜ける。
 そんな楼香さんに俺はどんな顔をして文句を言えというのだ!
 どんな理由があったって言えるものか!ハイ・プリーストとしても!男としても!いやひまわりだってきっと言えないはずだ!!
「くそおおおおおお!!」
 俺にはもう朝の大聖堂を全力で当ても無く駆け巡り、プリースト達の安眠を妨害しつつこの溢れ出す怒りをぶつける探すことしかできないのだった!

~~~
「はあ゛~・・・・・」
 回想終了・・・
 俺は昨晩(・・・と言ってもついさっきだが)の出来事を思い出し、幸せが三匹くらい逃げそうな長ーいため息をついた。あれから俺は大聖堂前の原っぱに出てきていた。限界にまで達していた体はしきりに「頼むぅ少し眠らせてくれぇぇ」とセツジツに訴えていたのだが、部屋にいるのは息苦しくて頭のひまわりもぐんにゃり花を重そうに俯かせていたので、新鮮な空気を求めて外に出てきたのだった。そして大聖堂の手入れの行き届いた芝生に手足を投げ出して腕と足に伝わってくるひんやりとした温度と芝のちくちくとした感触を楽しんでいた。あんまり気持ち良いものだから俺は浜辺に打ち上げられたクラゲのようにべちゃあ、と芝生に張り付いたまま俺はもう一歩も動く気力をなくして、そのまま体が溶けて芝生の発育を助けてしまうなあと思った。そしたらここに人型に芝生が発育して・・・・
「っは」
 いつの間にか眠りかけていたらしい。俺は慌てて体を起こした。
 いくら涼しくて気持ち良いからって、今は7月のあたま。しかもラジオ体操でも聞こえてきそうな朝っぱら。こんなところでうっかり寝てしまっても頭のひまわりはハッパを目一杯広げて喜ぶかもしれないが、俺は昼ごろ絶好調になった太陽に水分を奪われて干からびたミミズのように萎びた姿で発見されてしまう。
「・・・・あれ?」
 睡魔を追い払った俺は通りを見ていた。もっと正確には通りをとっとことっとこと歩く小さな人影を見ていた。それは距離的に小さく見えるのではなく、実際に小さい女の子だった。
 その時、女の子が前置きもなくくるんとこっちを見たので、もろにその子と目が合ってしまった。
「・・・・う」
 俺は自分でも気づかずに呻いていた。別にそこ子が嫌いだった訳ではない。ただ、状況が悪かった。今は一人で休んでいたかった。
 その女の子は俺の纏めているギルド「Ragnarok Runner」のメンバーの一人で・・・・そう、彼女はとても・・・元気なのだ。
「にゃー!」
 予想通り俺だと気づいた女の子は溢れ出す元気を全身から放射させながら、何がそんなに楽しいのか?と聞きたくなるような満面の笑顔ですっ飛んできた。
「・・・おはよ」
 全身から漲る元気に圧倒されながらもぴくぴく引きつり笑顔ででなんとか挨拶を返すことができた。スーパーノービスのるちるちゃんは動きやすそうな薄い茶色の短パンに白いシャツを着ていて、背中には白い羽の生えた小さなこげ茶色のリュックを背負っていた。そして良く見てみると短くショートに切り揃えられたラベンダー色の髪の間からぴょんぴょんと黒い三角形の猫の耳が見えた。その服装も似合っていたが、活発なるちるちゃんにはその猫の耳がとても似合っていると思った。猫の鳴き真似はなんまり似てないけど。
「にゃ」
 るちるちゃんは大きな深緑色の目で俺を見た。
「えーと・・・」
 あんまりじっと見るものだから俺は目のやり場に困ってうろうろと辺りを見回しながら話題を探す。
「るちるちゃん早起きなんだね」
「にゃー」
「・・・?」
 俺が言うとるちるちゃんは照れたように笑ったが、俺はそこで妙な違和感を感じていた。
「る、るちるちゃん?」
「にゃ?」
「え!?」
 俺は思わず声を出してしまった。今るちるちゃんは俺の右手のほうをひらひらしていた赤い羽根のチョウチョに気を取られていたのだが、俺が呼んだ瞬間、確かに動いたのを見たのだ。
 るちるちゃんの頭から飛び出した黒い猫の耳のアクセサリーが、本物の猫がそうするように、俺の声にぴくりと反応してこっちを向いたのだ!
「るちるちゃん!?」
「にゃ?」
「おはよう!」
「にゃー」
 俺はごくりと喉を鳴らして冷や汗を拭った。
「るちるちゃんの名前ってなんだっけ?」
「にゃー?」
「・・・っ!!」
 俺は心臓にファイアボルトをぶち込まれたかのような衝撃を受けてぐぃぃぃと背骨を伸ばして仰け反った。大変だ。これを大変と呼ばないのならこれからの人生で慌てるコトなんて殆ど起こりはしないだろう。一体何が起こったのかなんて判らない。とにかく一つ判っているのはるちるちゃんが猫になってしまっているコトだけだ!ギルドメンバーが猫になってしまったなんてウワサ流れても困るが、このまま戻らなかったらもっと困る!確かにたまり場の酒場は鷹だろうがペコペコだろうが白菜みたいな植物人間だろうが、ソヒーだのムナックみたいなゾンビでさえペットと言い張れば入れてもらえる自由すぎる酒場だから出入りには困らないが、ギルドメンバーには猫の言葉なんて判るヤツは殆どいない(ゼロじゃないのが凄いけど)。だけど少なくとも俺には判らないんだ!それは困る!ああ、いや言葉とかそういう問題じゃない。とにかく・・・とにかくどうにかしなくては・・・っ。
「にゃ?」
 るちるちゃんは俺の思惑なんて気づかない様子で、きょろきょろと忙しなく視線を泳がせる俺をみて不思議そうな顔をした。
 なにか、なにか無いのか!
 心臓がばっきゅんばっきゅんと脈打ち始め、息が苦しくなって口からはーっはーっ、という荒い息が漏らしながら、恐れと不安で手のやり場に困り小さな女の子の前で中空で両手をうろうろと彷徨わせる姿は端から見たら、凄く危ない一線を越えかけてる感じのおじちゃんに見えたかもしれないが、今の俺にはそんなことを気にする余裕すら無かった。
「っは」
 その時俺の目が黒い物体を視界に捉えて動きを止めた。

(ま、まさか!このネコミミのせいで・・!?)
 俺の目に映ったのは二つの黒い三角形・・・本物のネコのミミのようにキョロキョロと周囲を探っている、るちるちゃんの頭に乗っかったネコミミでした。
 ごきゅり・・・
 俺は恐る恐ると二つの手をるちるちゃんの頭に伸ばし、るちるちゃんは俺の手を目をぱちぱちさせて眺めていました。
 ぐあし!
 そしてスローモーションで伸びた両腕は、獲物に飛び掛る肉食動物のような俊敏な動きで二つのネコミミを捕らえて・・・引っ張る!
「にゃー!!」
 本物の猫の耳の感触とるちるちゃんの声に俺はちょっと怯みましたが、
「てい!」
「うにゃぁぁぁぁぁ!!」
 思い切ってさらに、ぐぐぃと斜め上に引っ張った。しかしるちるちゃんの頭まで一緒についてきてしまうばかりで一向に取れる気配がありません。
(と、取れない!)
 耳が取れる前に首がスポンと取れるイメージがフラッシュバックしたので、慌てて力を抜いて落ち着こうと三回深呼吸しました。
(いや待て、ネジ式だったのかもしれない。それとも・・・まさか既に脳に・・・っ!?)
 と、その時、頭上にスっと影が射したたので、俺は思わず顔を上げた。
「・・・何をしているのですか?」
 それは軽蔑のような・・・哀れみのような、はたまた心配しているような、いわく言いがたい表情で俺を見下ろす楼香さんでした。
「ろ、楼香さん!!」
 しかし俺にはそんな楼香さんが、今この状況を打開してくれるメシアに見えていました!そう、あの漢字で救世主と書いてメシアです!
「楼香さん!大変なんだ!るちるちゃんがおかしいんだ!」
「落ち着いてください。私には大変なのも、おかしいのもツヴァさんに見えました」
 そう言って楼香さんは俺を手で制します。そして直後に起こった出来事に俺は耳を疑いました。
「ろかさぁぁん!!マスターがいじめるのー!」
 そう、はっきり人間様の言葉で操って、るちるちゃんはしゃくりあげながら楼香さんの胸に飛び込んだのです。
「!?」
 一体全体どういうことでしょう!!俺はぽかんと口を開けてその様子を眺めてしまいました。
 楼香さんはるちるちゃんの頭を優しくなでながら、るちるちゃんの頭越しにソードメイスみたい怖い目で俺を見るので慌てて口を開きます。
「ち、違うんですよ!本当にさっきまでオカしかったんですって!」
 俺はるちるちゃんに騙されたのでしょうか?それとも徹夜の疲労と睡魔の作り出したマボロシだったのでしょうか? 
「って、あれ?楼香さん何を持ってるですか?」
 るちるちゃんの背中に回した左手には年季の入った小さなシブい紫色の箱が掴まれていることに気がつきました。言いながらも俺はその箱に見覚えがありました。その名も『古い紫色の箱』というなんひねりもないネーミングで呼ばれている魔法のアイテムで、開けると武器とか防具とかゴミとかが飛び出してくる不思議アイテムだ。
「あ」
 そこで俺はなんで楼香さんがなんでこんなご都合主義的なタイミングで現われたのかということに気づきました。そうだ、きっと律儀な楼香さんのことだから昨晩のお礼をしに来たに違いありません。
「・・・」
 楼香さんは数秒の間をおいて手にした箱をるちるちゃんに手渡しました。
「・・・・にゃ?」
「あれ!?」
 二人の温度差のある驚きの声が重なります。
「楼香さん!渡す人を間違ってませんか!?」
「るちるさんを苛める人のためじゃありませんから」
「だから誤解なんですって!!」
 俺は分からず屋の楼香さんにやりきれなくなって空に向かって叫びます。
 楼香さんは俺の声を無視して紫の箱を持って見上げる るちるちゃんに優しい笑顔で「どうぞ」と言って促します。
「わーい!」
 るちるちゃんもさっきまでウソ泣きだったんじゃないかと思うような笑顔で箱を掲げてくるくる回って喜びました。そしてもう何がどうなってもあの箱が俺の手に渡ることがあり得ないということを悟った俺は歯をギリギリ鳴らして眺めるしかありません。
「どうせ染料とかしか出ない紫のゴミ箱なんていらな・・・」
「帽子だぁ!」
 俺の最後の抵抗はるちるちゃんの元気いっぱいの声によって無残に砕け散りました。楼香さんが「良かったですね」と言ってるちるちゃんの頭をなでているけど、何が良かったのかさっぱり判りません。
「ちょ、ちょっと待て!」
「倉庫行ってくるね!」
「いってらっしゃい」
 喜び絶頂のるちるちゃんに俺の声置いてけぼりにして走り出すと、あっという間に路地を曲がって見えなくなってしまいました。
「では、私も失礼しますね」
 るちるちゃんが消えた後、楼香さんがぺこりとお辞儀をして去っていきましたが、少女の消えた路地を見たまま固まっていた俺には楼香さんの声にも居なくなったことにも気づくことはできませんでした。

めでたしめでたし



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